本コラムは転換期を迎える現代のビジネスパーソンのために「考える」をテーマにしたトピックを毎月お届けしています。
不確実性の高い現代において、既存の思考領域の中だけでは停滞してしまう創造性。これでは望むような結果、イノベーションは得られないことでしょう。
第4回コラムでは、まずラムズフェルドのフレームワークの基本をメインにご紹介しました。
今回はそこに「+1」した「誰も知らない」領域を考えること、イノベーションを生み出す「世界にまだ何も無いものを創造する思考」について具体的な事例を交えてご紹介します。
革命的な2つのプロダクト
SONYのウォークマンとAppleのiPod/iTunesの比較は象徴的な事例です。先行してシェアを獲得し技術力も高かったウォークマンと、メディアプレイヤーとしては後発だったにも関わらず世界にイノベーションを引き起こしたiPodとは何が違ったのでしょうか。
約20年前の2001年にiPodの発売が発表されるよりもさらに約20年前の1979年、ウォークマンは誕生しました。
1号機の開発は報道機関向けに販売されていたカセットテープのポータブル録音機。これを音楽が聴けるように改造したのが始まりだったそうです。
それから2年を待たずとして発売された2代目ウォークマンは、発売開始からわずか9カ月で100万台を突破する世界的大ヒット商品に。
やがてカセットテープからCDやMDと記憶媒体が変化しながら、より高品質・よりコンパクト・より多機能にという製品開発が進められていきました。
一方でiPodはどうだったのか。
まず、シンプル=機能というスティーブ・ジョブズのポリシーを体現した革新的なデザイン性については改めて説明する必要はないでしょう。
しかしiPodのイノベーションは「これまで見たこともないデザイン」というだけではありません。
「iPod。1000曲をポケットに。」
あまりにも有名なiPod発表時のプレゼンテーションですが、当時はそれほど多量の音楽を持ち歩きたいという「発想すらない」時代でした。そんな必要はない、と批判する人もいたほどです。
またiTunesもまた全世界のあらゆるジャンル、レーベルの音楽をインターネットで入手できるという、当時は想像だにしなかった革新的なプラットフォームでした。
点の機能サービスから面のサービス提供へ
当時、iPodの開発チームのリーダーは「このプロジェクトはAppleをつくり変えることになる。10年後には、コンピューター事業ではなく音楽事業になっているだろう」と述べたと言われています。
それまでは、いかに革新的な技術をもってしてもあくまで「ユーザーが持つ楽曲を入れるコンピューター端末」に過ぎなかったメディアプレイヤー。それがiPodの登場でiTunesというプラットフォームを核としたサービス端末の側面を持つようになりました。
自分の楽曲を持ち運ぶという点の機能サービスから、音楽配信プラットフォームを核とした面のサービス提供へ。iPod/iTunesがこの基盤を築き、世界はサブスクリプション型のサービス提供へと転換していったのです。
世界中の誰もその価値をまだ知らない、そんな領域にアプローチした製品開発。
ウォークマンのように既知の部分から改善を積み重ねていくアプローチとは異なり、ラムズフェルドのフレームワーク+1の領域「だれも知らない」から生み出されるイノベーション、それがiPodだったのです。
もしあなたのビジネスでiPod/iTunesのようなイノベーションを起こしたいのであれば、+1の領域へ進み「全く何も無いものを創造する思考」を実践しなくてはなりません。
いくら優れたフレームワークをいくつも知っていたとしても、使いこなさなければ宝の持ち腐れ。また、実際にマーケット視点・グローバル視点での創造を実現しなくてはならないのです。
しかし、頭ではいくらわかっていても実践するのは難しいもの。イノベーティブであればあるほどなおさらです。次回はそんな状況を打破するヒントをご紹介していきます。
※本コラムで登場するシステム名、製品名は、一般に各開発メーカーの登録商標あるいは商標です。なお、本文中では™、®マークを省略しています。
ピンバック:【コラム(6)】新たな発想のための思考 – シンキングパートナーズ合同会社